ガバメントクラウドファンディングとは?
ガバメントクラウドファンディングとは、政府や自治体が主導するクラウドファンディングのことで、「ふるさと納税型クラウドファンディング」とも呼ばれます。
何かの取り組みをしたい「起案者」がプロジェクトを立ち上げ、それを応援したい「支援者」が資金を提供する仕組みは、通常のクラウドファンディングと変わりません。
通常のクラウドファンディングとの違いは、起案者が政府や自治体(もしくはこれらにプロジェクト開催を認められた団体)であること、プロジェクトの内容が被災地支援や地域活性化などの社会的な活動であることの2つです。
ふるさと納税との違い
ふるさと納税とは、税金を納める自治体を納税者自らが選び、「寄付」をする仕組みです。寄付金から2,000円を引いた額は「所得税の還付」「住民税の控除」が受けられるため、実質、自分の好きな自治体に納税をしているのと同じことになります。
ふるさと納税には「返礼品」と呼ばれるお礼の品があり、たいていは寄付先の自治体の名産品や主要産業にかかわるものがもらえます。ふるさと納税の寄付先は、どんな返礼品がもらえるかで選ぶ人が多いでしょう。
一方、ガバメントクラウドファンディングでは、返礼品よりも「プロジェクトの内容」を重視して寄付先を選びます。寄付金を税金から控除してもらえるのはふるさと納税と同じですが、寄付先の選び方が違います。
【寄付先の選び方の違い】
ふるさと納税:寄付先を返礼品で選ぶ
ガバメントクラウドファンディング:寄付先をプロジェクトの内容で選ぶ
ガバメントクラウドファンディングの歴史
ガバメントクラウドファンディングは、2013年頃から注目されるようになりました。ふるさと納税サービスの「ふるさとチョイス」を提供する株式会社トラストバンクがはじめたサービスです。そこで使われていた「ガバメントクラウドファンディング」という名称が、今ではふるさと納税型クラウドファンディング全般に使われるようになったといわれています。
広く一般に認知されはじめ2017年頃のことです。総務大臣だった野田聖子さんが「ガバメントクラウドファンディングは寄付金の使い道がハッキリしていて、支援者にとって寄付をする意義の高いものだ」と発言することで、広く認知されるようになりました。
ガバメントクラウドファンディングの社会的意義
ガバメントクラウドファンディングは「返礼品ありきで寄付先を選ぶ」から、「寄付金の使い道で寄付先を選ぶ」へと、人々の意識を変える可能性を秘めています。
従来的なふるさと納税は返礼品ありきで寄付先を選ぶ人が多く、制度自体が、それを促進する仕組みといえます。
しかしガバメントクラウドファンディングは返礼品ではなく、プロジェクト内容で寄付先を選ぶ側面が強く、人々の「世の中がもっとこうなったらいいのに」「社会的な問題に関心を持ち、解決に協力したい」という気持ちに働きかけるものです。
「モノではなく、善意で寄付先を選ぶ人」が増えるような仕組みであり、人々の社会に対する関心と社会貢献の気持ちを高める意義があります。
ガバメントクラウドファンディングを立ち上げるメリット
自治体がガバメントクラウドファンディングを立ち上げるメリットには、次のようなものがあります。
【ガバメントクラウドファンディングを立ち上げるメリット】
・返礼品がなくてもOK
・目的を定めて寄付を募れる
・目標額に届かなくても、寄付金を受け取れる
ふるさと納税やほかのクラウドファンディングとの違いに注目しながら、それぞれのメリットについて確認していきましょう。
返礼品がなくてもOK
ガバメントクラウドファンディングの1つ目のメリットは、「返礼品がなくてもOK」なことです。
ふるさと納税では返礼品を、通常のクラウドファンディングではリターン(商品やサービス)を寄付者や支援者に返さなくてはなりませんが、ガバメントクラウドファンディングではその必要がありません。
返礼品を用意しなくていいため、集まった寄付金はプロジェクトそのものにほぼ全額投資できます。
目的を定めて寄付を募れる
ガバメントクラウドファンディングの2つ目のメリットは、「目的を定めて寄付を募れる」ことです。ガバメントクラウドファンディングに限らず、クラウドファンディングではどんな活動や取り組みをしたいのかを定め、そのための資金を募ります。
返礼品やリターンで支援者を募る、いわばマーケティングのようなことは考えずに、どんな活動をしたいかだけを考えて支援者を募れるのです。
支援者にとっては「そのプロジェクトを完遂してもらうこと」「プロジェクトを通してより良い社会をつくること」がリターンといえます。このような「あたたかい支援金」を募り、目的を定めて活動に集中できるのが、ふるさと納税との大きな違いです。
目標額に届かなくても、寄付金を受け取れる
ガバメントクラウドファンディングの3つ目のメリットは、「目標額に届かなくても、寄付金を受け取れる」ことです。
クラウドファンディングでは支援金をどのくらい集めるのか、目標額を設定します。ただ、中には目標額に1円でも届かないと、集まった支援金を受け取れないものもあります。
ガバメントクラウドファンディングでは目標の達成・非達成にかかわらず、集まった分の支援金は受け取れることが多いです。支援者を募るプロモーションにかけた時間や労力が、無駄になることはありません。
ガバメントクラウドファンディングに寄付するメリット
ガバメントクラウドファンディングに寄付することには、「寄付金控除の対象となる」「気になる取り組みや自治体を応援できる」の2つのメリットがあります。支援者にとってのメリットについて、ふるさと納税と後外に注目しながら解説します。
寄付金控除の対象となる
ガバメントクラウドファンディングに寄付する1つ目のメリットは、「寄付金控除の対象となる」ことです。これはふるさと納税と同じメリットで、支援したお金は同じように寄付金控除の対象にできます。
【寄付金控除の計算方法】
その年の間に寄付をした総額-2,000円=寄付金控除額
【寄付金控除の方法】
寄付をした翌年の2月15日~3月16日(土日祝日の場合は翌平日)の間に確定申告を行います。このとき、寄付先から送られる寄付金受領証明書(領収書)が必要になります。
確定申告をすることで、申告前年の「年収(総所得)」から「寄付金控除額」が引かれ(控除され)ます。住民税や所得税は「年収ー控除総額=所得額」により金額が決まるため、控除により所得額が少なくなれば、税金の額も少なくなります。
気になる取り組みや自治体を応援できる
ガバメントクラウドファンディングに寄付する2つ目のメリットは、「気になる取り組みや自治体を応援できる」ことです。
返礼品ありきで選ぶふるさと納税では、寄付したお金がどのように使われているのか、少しわかりづらいかもしれません。しかし、プロジェクトの内容ありきで選ぶガバメントクラウドファンディングでは、取り組みやお金の使い道をよく吟味して寄付先を選べるでしょう。
また、ふるさと納税は「取り組みを応援する」というよりも、「その地域の産業を応援する」という側面が強いです。一方ガバメントクラウドファンディングは「地域の課題を解決する」「社会的な取り組みを応援する」という側面が強く、より直接的に、関心を持った社会的課題の解決に支援している感覚が得られます。
ガバメントクラウドファンディングの事例
ガバメントクラウドファンディングとはどんなものかを理解するには、やはり実際の事例を見てみるのが早いでしょう。
ガバメントクラウドファンディングの理解に役立つ3つの事例を紹介するので、どんな課題の解決を応援したいか、自分の価値観と照らし合わせながらチェックしてみてください。
【鳥取県】脱炭素化に関するエネルギー管理システムの開発
鳥取県では社会の脱炭素化の流れを受けて、「脱炭素化に関するエネルギー管理システムの開発」を進めることになりました。このための資金を確保するために活用されたのが、ガバメントクラウドファンディングです。
このプロジェクトは、鳥取県を中心に電気設備工事業を行う「株式会社エナテクス」により行われました。建物のゼロ・エネルギー化の課題を解決するためのシステム開発に必要な資金100万円を、クラウドファンディングで募ることとなったのです。
リターンには活動報告や感謝のメールのほかに、グループ企業がソーラーパネルの下で栽培した生しいたけや、「建物を調査して省エネルギー診断報告書を作成する」などがありました。
鳥取発!建物・工場の脱炭素化を実現するエネルギー管理システムの開発 │ READYFOR
【福井県】若者にグローバル視点の大切さを伝えるセミナー
福井県では地域の若者に向けた「グローバルマインド養成セミナー」のための資金を、ガバメントクラウドファンディングで募りました。
プロジェクトを立ち上げた森正樹さんは福井出身で、就職後は海外駐在し、さまざまな国際的な業務を経験した人です。東京や海外で働く中で地元福井への愛着はむしろ高まり、海外でのビジネスで得られた経験を、グローバル時代を生き残れる人材を育てるために活かしたいと思うようになったといいます。
プロジェクトは20~30代を対象に、グローバル視点を持つことの意義を伝えるための啓発セミナーを開くものです。目標額50万円に対し、3倍以上の163万円が集まり、プロジェクトは成功しました。
地元福井の将来を担う若者にグローバル視点を持つ大切さを伝えたい!!
【福島県】1,000年続く地元文化を守るプロジェクト
福島県では1,000年続く地元文化「相馬野馬追」を守るために、1,000万円の支援金を募るプロジェクトが行われました。
感染症の影響で相馬野馬追の開催規模は縮小し、馬主たちにも深刻な影響がありました。この伝統文化を未来に残すための資金を集めるために活用されたのが、ガバメントクラウドファンディングです。
福島といえば、2011年の東日本大震災や原発事故が思い浮かぶ人も多いでしょう。相馬野馬追が行われる相双地方も被害を受けましたが、厳しい状況下でも相馬野馬追は規模を調整しながら開催されました。
地震にも負けなかった相馬野馬追ですが、感染症の影響で出場者への奨励金が支給できない事態にまで追い込まれました。さらには少子高齢化や経済的な負担など、さまざまな要因により1,000年続く伝統文化は衰退の危機に陥ったのです。
目標額は1,000万円とかなり高めでしたが、最終的には1,224万円もの支援金が集まりました。「窮地を何度も乗り越えてきた伝統文化を何としても残したい」という想いが伝わった結果といえるでしょう。
ガバメントクラウドファンディングで住みよい地域と優しい気持ちを育もう
ガバメントクラウドファンディングの仕組みは、基本的にはふるさと納税と同じです。地域の産業を応援するのがふるさと納税だとするなら、住みよい地域をつくるためのものがガバメントクラウドファンディングといえるでしょう。
ガバメントクラウドファンディングではプロジェクト内容を見て寄付先を決められるので、関心のある社会問題を解決するために、直接的な支援ができるでしょう。
プロジェクトを立ち上げる人にとっては資金調達の、支援者にとっては寄付金控除を受けられるメリットのあるガバメントクラウドファンディングですが、その本質は「人の想いをつなぐこと」にあります。寄付や支援を通して住みよい地域をつくることは、人々の優しい気持ちを育むことにもつながっていくはずです。
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