マーケティングにおけるインサイトとは?
マーケティングにおけるインサイトとは、消費者や顧客の「動機や本音」のことです。なぜその商品やサービスを買ったのかという動機、本人さえも気付いていない本音を指します。消費者インサイトや顧客インサイトとも呼ばれます。
消費者がなぜ自社を選んだのか、なぜお金を出そうと思ったのかの本質、つまりインサイトを見抜くことが、現代のマーケティングにおいては重要です。
広義でのインサイト
インサイト(Insight)は本来「洞察」を意味する言葉です。洞察力や物事の本質を見抜く力のことであり、これに由来して、マーケティングの世界では「消費者の本音を見抜くこと」を意味します。
データや情報に基づき考え抜く力や、そこから何がいえるのかを導き出す力のことだと思うと、わかりやすいでしょう。
潜在ニーズとの違い
「本人さえも気づいていない」という意味で、インサイトは潜在ニーズと似ています。しかし、潜在ニーズとインサイトには明確な違いがあります。潜在ニーズはまだ気づかれていない欲求であることに対し、インサイトは欲求そのものがまだない状態です。
例えば「痩せたい」という顕在ニーズがあったとしましょう。痩せたいというニーズの先には、「健康でいたい」「モテたい」といった潜在ニーズがあり、痩せることそのものが目的ではありません。本人は潜在ニーズに気づいていないかもしれませんが、「痩せたい」と思った本当の理由は、心の奥底にたしかに存在します。
一方、インサイトは「健康でいたい」「モテたい」といった本当の欲求すらない状態です。例えば新開発したダイエット器具を売るためにポスターを作り、それを目にしたことで「痩せたい」という欲求が生じた人がいるとします。このような、欲求を起こしたり心を揺さぶったりするきっかけが、インサイトといえます。
インサイトがマーケティングにおいて注目される理由
現代でインサイトが注目される理由は、モノを売ることが難しくなったからでしょう。
社会の情報化により、消費者は自ら情報を集め、好きなものを取捨選択するようになりました。価値観の多様化により「持たない暮らし」に興味を持つ人は増え、商品やサービスを選ぶ基準も多種多様になりました。製品ごとの機能差・価格差の違いが小さくなったことも、マーケティングの難しさにつながっているでしょう。
そもそものモノを買う機会が減ったうえ、消費者がどんな基準で自社のモノを選んだのかも見えづらくなったのが現代です。
他社との差別化は顧客の本音、つまり自社が選ばれた本当の理由を知らなければなりません。モノが売れない、つまりニーズがない状態から、ニーズを新しくつくり出すことも必要です。
消費者インサイトを探す方法
消費者インサイトを探すことは、現代のマーケティングで欠かせないことです。インサイトがわかれば商品やサービス、宣伝方法の改善点がわかります。
マーケティングのタイミングや状況ごとにおすすめな、インサイトの探し方を紹介します。
【消費者インサイトを探す方法】
・新規プロダクトを立ち上げる前に「行動観察調査」
・既存プロダクトの改善に適した「インタビュー調査」
・手軽に取り組める「ソーシャルリスニング」
新規プロダクトを立ち上げる前に「行動観察調査」
新規プロダクトを立ち上げる前なら、「行動観察調査」がおすすめです。消費者やターゲットの普段の行動を観察することで、彼らがどんなインサイトを抱えているかを探ります。
自社の商品やサービスに対するニーズやインサイトではなく、競合他社のユーザーや街中の人々(自社のターゲットにもなりうる消費者)を調査するため、プロダクトの立ち上げ前にも活用しやすいです。
行動に注目するため、インタビュー調査やソーシャルリスニングでは見えてこない「隠れた本音」が見えることもあるでしょう。
既存プロダクトの改善に適した「インタビュー調査」
既存プロダクトの改善に適しているのが「インタビュー調査」です。プロダクトの良い点・悪い点や、インタビュー対象の生活のことなどを聞き取り調査します。質問内容を自由に決められるため、ほしい情報をピンポイントで集められるでしょう。
1対1で会話するデプスインタビューや、複数の参加者を集めて座談会のように聞き取りをするグループインタビューなど、さまざまな手法があります。デプスインタビューにはインサイトを深掘りしたり言いづらい本音を聞き出せたりといったメリットが、グループインタビューではさまざまな観点からの意見を短期間で集められるメリットがあります。
手軽に取り組める「ソーシャルリスニング」
手軽に取り組めるものといえば、やはり「ソーシャルリスニング」でしょう。SNSやブログ、口コミサイトなどの投稿を集め、これらを分析してインサイトを探ります。
Webに公開されているデータを集めるため、データ収集にかかる時間やコストは少ないです。インタビュー調査ではなかなか出てこなかった本音も、匿名であるWebにはたくさん転がっています。
PC前にいながら広い層をリサーチできるため、とにかく手軽で、効果も大きいです。特にマーケティングの初期段階では、まずはソーシャルリスニングを試してみるといいでしょう。
消費者インサイトを分析するコツ
行動観察調査やソーシャルリスニングなどは、あくまでデータ集めの手法です。集めたデータを分析しなければ、消費者インサイトは見えてこないでしょう。
インサイトを探り、マーケティングに活かすためにはどうすればいいのか、分析方法を解説します。
【消費者インサイトを分析するコツ】
・データの収集、統合
・共感マップでインサイトを深掘りする
・手段と目的の両方に注目する
・顧客の行動には矛盾があることを前提にする
データの収集、統合
インサイトを探り、マーケティングに活かすためには、まずはデータの収集と統合が必要です。「消費者インサイトを探す方法」で紹介した手法を使い、消費者の行動データや意見を集めましょう。
マーケティングの初期段階なら、行動観察調査やソーシャルリスニングがおすすめです。商品やサービス、施策の改善が目的なら、インタビュー調査で現状の課題を探し、深掘りしましょう。
共感マップでインサイトを深掘りする
市場や自社ユーザーなどからデータを集めたら、それを分析、深掘りしましょう。インサイトを探すには、「共感マップ」が役立ちます。
共感マップとは、ターゲットやペルソナ(ターゲット像を具体的に描くための、架空の個人)について、置かれた環境や抱える感情を理解するためのマーケティング手法です。これらを理解するために、次の6要素をシートに記入します。
【共感マップを構成する6要素】
・見ているもの
・聞いていること
・考えたり感じたりしていること
・言ったり行動したりしていること
・ストレスを感じていること
・欲しいもの
これらの要素を俯瞰することで、消費者の視点に立てるようになります。消費者視点でどんな願望や本音があるのか、考えてみましょう。
手段と目的の両方に注目する
インサイトを探るうえで大切なのは、手段と目的の両方に注目することです。例えば「運動器具を買い、使う」という手段を取っている人には、「健康を保ちたい」「趣味で身体を鍛えたい」「痩せて着られなくなった服を着たい」など、さまざまな目的があるでしょう。
このように、同じ手段を取っていても、その目的は人それぞれです。インサイトは購入や行動の動機であり、これをつくるためには「その人の叶えたい目的」にアプローチしなければなりません。目的と手段の重宝に注目し、その関係性を考えてみましょう。
顧客の行動には矛盾があることを前提にする
マーケティングを進めるうえで常に意識したいのが、「顧客の行動には矛盾がある」ことです。
例えば痩せたいと思っているはずの人が、ふとしたきっかけで暴飲暴食をしたり、日課の運動をサボったりすることはよくあります。
実際のエピソードとして有名なのが、マクドナルドのアンケート調査です。マクドナルドがユーザーにどんな商品が欲しいかを聞いたところ、最も多い答えは「ヘルシーな商品」でした。しかし、要望に応えてつくったサラダマックはあまり売れず、その後にメガマックのような、ヘルシーとは程遠い商品が大ヒットします。
顧客や消費者の行動・意見には、矛盾が潜んでいるものです。調査結果を鵜呑みにせず、集めたデータと自社のポジションを照らし合わせながら分析を進めましょう。
マクドナルドの事例でも、人々がマクドナルドに求めているのは「ジャンクさ」「肉を食べている感じ」であることを前提としていたら、アンケート結果に矛盾があることに気づけていたかもしれません。
消費者インサイトをマーケティングに活かした事例
先述したマクドナルド以外にも、消費者インサイトをマーケティングに活かした事例は多いです。マーケティングとインサイトの関係性を、特にわかりやすい2つの事例から解説します。
リスクを取って、新規ターゲットを開拓「大戸屋ごはん処」
リスクを取って新規ターゲットを開拓し、成功したのが「大戸屋ごはん処」です。
大戸屋ごはん処はチェーン展開の定食屋で、手軽に、栄養バランスに優れた食事がとれるのが魅力です。ただ、大戸屋ごはん処が全国展開しはじめた1990年代では、このような定食屋はまだまだ少なく、男性がいく店というイメージも強力でした。
しかし、栄養バランスの優れた食事を手軽にとりたいというニーズは、男女に関係なくあるはずです。そう考えた大戸屋ごはん処は、女性客を集めるために「地下や2階以上の立地」にある店舗を増やします。
このような立地は集客面で不利であり、飲食店には向いてないとされています。しかし、だからこそ「目立たない」「人の多い食事時に、誰にも見られずに店に入れる」といったメリットもあります。
大戸屋ごはん処は女性たちの本音を深掘りし、このインサイトに気づいたのです。
方向性を少し変え、常識をくつがえす「AKB48」
自社の新たな販路を拡大するだけでなく、業界全体の方向性を変えた事例としては、「AKB48」が有名です。
AKB48は今でこそ高い知名度を誇り、テレビをはじめとするメディアへの露出も多いですが、もともとは地下アイドルとしてはじまったグループです。
以前のアイドルはどこか神聖化された、雲の上のような存在でしたが、だからこそファンたちには「アイドルに会ってみたい」「直接話してみたい」というインサイトが響きました。これに注目し、「会いに行けるアイドル」のコンセプトで売り出したところ、大ヒットしたわけです。
この大ヒットはアイドル・タレント業界全体に影響を与えました。今では企業に所属し、アイドルのような売り出し方をする「ライバー」「Vtuber」も多いです。神聖化されたアイドルから、会いに行けるアイドル、PCやスマートフォンを通してコミュニケーションできるアイドルへと、業界の方向性が変わった事例といえます。
マーケティングにおけるインサイトは分析/実現可能であるかを重視
現代のマーケティングにおいて、消費者インサイトを意識することは重要です。しかし、インサイトは分析/実現可能なものでなければ、マーケティングに活かせません。
例えばマクドナルドの行ったアンケート調査では、ユーザーはヘルシーなメニューを欲しているという結果が出ました。しかし、実際に求められていたのはボリューム感のある、肉を主体としたメニューでした。この矛盾は調査や分析だけではなかなか見えてこないもので、そう簡単に気づけるものではなかったでしょう。
また、インサイトに気づけたとしても、それが実現不可能なものだったら意味がありません。
インサイトを探ることは大切ですが、分析や実現の可能性も、常に念頭に置いておきましょう。
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